歯を抜かないで矯正をしたい(床矯正のこと)
院長です。
例年になく暑い日が続いています。今日は、床矯正と非抜歯矯正のことを書こうと思います。以前にも書いたのですが、インターネットの普及で、歯科に関してもいろんな情報が広まっていて、電話のお問い合わせであまりの専門性の高さにびっくりするようなこともよくあります。最近よく聞かれるのが床矯正とそれと関連した非抜歯の矯正治療です。”先生の所では歯を抜かない矯正はしないのですか?”とか”床矯正治療はしないのですか?”とか聞かれることが多くなりました。答えは”非抜歯の矯正もします””床矯正もしています”です。しかし”患者さんの状態によって、違います”と付け加えています。問題は複雑ですが、ある治療法ですべての病気が解決できないのと同じように、ある矯正装置ですべての不正咬合が解決できるわけではありませんし、患者さんの状態によって治療法は異なることを書こうと思います。
矯正治療をするときに、永久歯を減らして歯をならべる方法と歯を抜かないで矯正する方法があります。だれでも歯を抜かないで矯正をしたいと思います(これは、私が自分のこどもの治療をするとしても同じ気持ちです)。そこで早い場合には乳歯列期から歯列を拡大して、将来歯を抜かないですむようにと提唱されているのが”床矯正”です。一般的には入れ歯のような、取り外しの装置を使用しますので、”床矯正治療”(歯科では入れ歯のような形を床とよぶのです)と呼ばれています。とりはずしができる、あるいは将来歯を抜かないで済むという点で全く理想的な治療法に思えるのですが、問題は少し複雑です。
我々が、矯正治療で歯をぬくか、ぬかないか決めるのは、どれくらい歯のでこぼこがあるのか?口許の形はどうか?かみ合わせのバランスはどうかということを基準にしています。歯はきれいに並んでいても、口許がゴリラや馬のように飛び出ていては、いやですよね。歯を抜くことで、歯並びやかみ合わせを整えたり口許をすっきりさせることも矯正治療のひとつです。あごは成長期の間は伸び続けますし、思春期には鼻やおとがい(下あごの先端)も成長します。と考えると大人になったときにどれ位の顎の大きさになるのか?どんな顔になるのかの見通しがつかなくては、早期に歯をぬくか、ぬかないですむか決めることはなかなか難しい問題です。この解決に迫る現実的な方法は2つです(遺伝子レベルでの診断は除いて。という意味です)。1.定期的な観察と必要によってはレントゲンをとって、どのような方向にどれくらいのスピードで顎が成長しているか調べておく 2.両親の顔かたちを観察して将来どのような顔になりそうか予想しておく。といったことです。最終的には患者さんの歯並びの程度、顔かたち、患者さんの希望などを総合的に判断して治療方針を決めることになります。もちろん、歯列を拡大することで歯を抜くことが避けられそうならば、その方法を選択するのは当然のことですし、床矯正装置もそのひとつの方法です。
たとえば、こんな例を考えてみて下さい。あなたのこどもさんを身長185cmのタイガーウッズのようにしたいと思ったならば、どうするでしょうか?おそらくいい食事を十分に与えて、適切な運動をさせるのではないでしょうか?場合によっては、トレーニングの器具を使うかもしれませんね。それでも、いろんな条件によって皆が身長185cmになるわけではないことは理解していただけると思います。顎の成長、ひいては矯正治療に関しても同じことがいえると思います。十分な栄養をとること、咀嚼を十分にして顎の成長を助けること、顎の成長を阻害する鼻やのどの病気を治すこと、顎の成長に好ましくないかみ合わせを治すこと、上あごと下あごのかみ合わせのずれを治して調和した顎の成長を図ることが成長期の矯正治療の目的だと思います。そしてその一部として必要に応じて歯列の拡大を図ることが含まれてくると思います。そのうえで、個人の顎の大きさや顔かたち、歯の大きさ、かみ合わせに合わせて歯を抜く必要性を慎重に検討することになると思います。逆に非抜歯(歯を抜かない)矯正治療が明らかに困難な患者さんでは、こどもの時期の治療は最小限にとどめる場合もあります。
歯を抜かないで矯正したい=なるべく早期に歯列の拡大、というステレオタイプの情報が広がっているような気がして、少し心配に思います。成長期の矯正治療は歯列拡大だけではありませんし、それぞれの治療法には適応症(歯列の拡大が向いている人とそうでない人がいるという意味です)、適応年齢があります。どのような治療でも同じですが、十分な診査と診断および予測の上に適用されることをご理解いただきたいと思います。
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